連日のようにニュースやSNSで話題になっている「共同親権」。2024年に成立した民法改正がいよいよ施行される日が迫ってきました。「離婚後のルールが大きく変わるらしいけれど、難しくてよくわからない」「すでに離婚している自分にも関係があるの?」と不安や疑問を抱いている方も多いはずです。
本記事では、この約70年ぶりとなる家族法の大転換が、私たちの生活や子育て、そして養育費のルールにどのような影響を与えるのかを、専門用語を使わずに徹底的に解説します。
いよいよ施行される改正民法、離婚後の「単独親権」原則からの転換
2026年、いよいよ改正民法が施行され、日本の離婚制度は歴史的な転換点を迎えます。これまで日本では、両親が離婚した場合、父親か母親のどちらか一方だけが子どもの親権を持つ「単独親権」の制度がとられてきました。しかし今回の法改正により、離婚後も両親の双方が親権を持つ「共同親権」を選択できるようになります。
親権とは、未成年の子どもを育て、教育し、子どもの財産を管理する権利と義務のことです。これまでのルールでは、離婚届を出す際に必ずどちらを親権者にするかを決めなければならず、親権を得られなかった親は、法的には子どもの養育や教育に関する決定権を失っていました。これが、離婚後に子どもと離れて暮らす親が、子どもの進学や医療方針に関われなくなる大きな原因でした。
新しい制度では、離婚する際に父母が話し合い、「共同親権」にするか、これまで通りどちらか一方の「単独親権」にするかを選べるようになります。もし話し合いで決まらない場合や、意見が対立して裁判になった場合は、家庭裁判所が子どもの利益を最優先に考えて、どちらが適切かを判断することになります。
ここで重要なのは、共同親権が「義務」になるわけではないということです。両親が合意すればこれまで通り単独親権を選ぶことも可能ですし、後述するように、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待のリスクがあると裁判所が認めた場合は、被害者や子どもを守るために必ず「単独親権」と定められます。世間では「無理やり共同親権にされるのでは」という不安の声もありますが、法律上はあくまで「選択肢が増えた」と捉えるのが正確です。
約70年ぶりの家族法の大転換。片親疎外の防止と両親による養育の実現
なぜ今、これほどまでに大きなルール変更が行われるのでしょうか。その背景には、これまでの単独親権制度が抱えていた深刻な社会問題と、国際社会からの強い批判があります。
実は、先進国と呼ばれる国々の多くは、すでに離婚後の共同親権を原則としています。日本の「離婚したらどちらか一方が親権を独占する」という仕組みは、国際的には非常に珍しいものでした。そのため、国際結婚をした夫婦が離婚する際、日本人の親が子どもを連れて帰国してしまうと、もう一方の親が法的に子どもと関われなくなることが多発し、「実質的な子どもの連れ去りである」として海外から日本の制度に対する非難が高まっていました。
さらに国内においても、離婚後に離れて暮らす親が子どもと会えなくなる「面会交流の断絶」が大きな問題となっていました。単独親権の制度下では、親権を持つ親の意向が強く働くため、もう一方の親が子どもに会いたくても拒絶されてしまうケースが少なくありませんでした。子どもにとって、両方の親から愛情を受けて育つことは健やかな成長に不可欠であるという考え方が広まる中で、片方の親から引き離されてしまうことは「子どもの権利の侵害」にあたると指摘されるようになったのです。
また、養育費の不払い問題も、単独親権制度の弊害の一つとして長年議論されてきました。厚生労働省の調査などでも、母子世帯において養育費を継続して受け取っている割合は非常に低く、子どもの貧困の大きな要因となっています。離れて暮らす親が親権を失い、子どもと会うこともできない状況が続くと、次第に養育に対する責任感が薄れ、養育費の支払いが滞りやすくなるという悪循環が生じていました。
今回の法改正は、親同士の争いに子どもが巻き込まれるのを防ぎ、離婚後も「両親が共に子育てに責任を持つ」という姿勢を社会全体で後押しするためのものです。親の都合ではなく、常に「子どもの利益」を最優先に考えるという、現代の家族のあり方に合わせた約70年ぶりの根本的な見直しと言えます。
養育費の支払い義務強化と、進学・医療における共同決定の現実的な影響
では、実際に共同親権が導入されると、私たちの生活はどう変わるのでしょうか。最も影響が大きいのは、子どもの進学や医療に関する「重要事項の決定」と、「養育費のルール」の2点です。
まず、共同親権を選んだ場合、子どもの人生に関わる重要な決定は、原則として両親が相談して決めなければなりません。例えば、子どもがどこの学校に進学するか、大きな手術や治療を受けるかどうか、あるいは引っ越しによって子どもの生活環境が大きく変わる場合などです。これまでなら親権を持つ親が一人で決められたことも、今後は離れて暮らす親の同意も必要になる場面が出てきます。これは、両親が協力して子育てに関われるというメリットがある反面、教育方針などを巡って意見が対立した場合、なかなか物事が決まらず子どもが不利益を被るリスクもはらんでいます。
ただし、日々の食事や衣服の購入、日常的なちょっとした怪我の治療といった「日常の監護に関する事項」については、子どもと同居している親が単独で決めることができます。また、急を要する医療処置など「急迫の事情」がある場合も、事前の同意なしに一方の親が単独で判断してよいと法律で明確に定められています。生活のすべてをいちいち元配偶者に確認しなければならないわけではありません。
そして、多くの人が関心を寄せる「養育費」についても画期的な仕組みが導入されます。「法定養育費」という新しい制度です。これまで養育費は、両親の話し合いや裁判所の調停などで金額を取り決めなければ、法的に請求するのが難しい側面がありました。しかし今回の改正により、事前の取り決めがなくても、子どもを育てている親は、もう一方の親に対して「最低限の養育費」を法律上の権利として請求できるようになります。
さらに、養育費の支払いが滞った場合の強制執行(給料や財産の差し押さえ)の手続きも、以前よりスムーズに行えるよう改善されます。これは、子どもが経済的に困窮するのを防ぐための強力なセーフティネットとなります。
感情的な対立を避け、子どもの利益を最優先にした冷静な協議の準備を
この新しい法律の枠組みの中で、私たちはどのように対応していくべきでしょうか。まず大前提として理解すべきは、離婚や別居に至る事情は家庭によって全く異なるため、一つの正解はないということです。
これから離婚を考えている方は、相手との話し合いにおいて「どちらが親権を取るか」という勝ち負けの視点ではなく、「どうすれば子どもが一番安心して暮らせるか」という視点に切り替える必要があります。共同親権は、両親の間に最低限の信頼関係があり、子どものために冷静に連絡を取り合える状態であって初めて機能します。
もし、相手から身体的な暴力(DV)を受けていたり、子どもへの虐待があったりする場合は、絶対に無理をして共同親権を選ぶべきではありません。法律でも、裁判所がDVや虐待のリスクがあると判断した場合は、必ず単独親権にすると定められています。不安な場合は、一人で抱え込まずに弁護士や自治体の相談窓口、配偶者暴力相談支援センターなどの専門機関に早めに相談することが不可欠です。
また、すでに離婚して単独親権となっている方にとっても、今回の法改正は無関係ではありません。施行後は、過去に離婚した夫婦であっても、家庭裁判所に申し立てを行うことで、単独親権から共同親権へ変更できるようになります。離れて暮らす子どもとの関係を再構築したいと考える親にとっては、大きな希望となります。
新しい制度のもとでは、養育費の支払いと面会交流が、より密接に「親の責任」として結びつけられます。離婚を単なる「夫婦関係の解消」で終わらせるのではなく、形を変えて「親としての共同プロジェクト」を継続するという意識が、これからの時代には求められています。
まとめ
共同親権を導入する民法改正は、単なる法律のルールの変更にとどまらず、「親と子」のあり方を社会全体で問い直す壮大な取り組みです。これまでの単独親権制度の陰で、片方の親に会えずに寂しい思いをしてきた子どもや、経済的な苦難を強いられてきたひとり親家庭にとって、現状を打破する大きな転機となる可能性があります。制度が新しくなることで戸惑いや混乱も予想されますが、すべての根底にあるのは「子どもの健やかな成長を守る」という目的です。法律が変わるこの機に、私たち一人ひとりが家族のあり方について考えを深めることが求められます。
参考文献・出典元
法務省・家族法改正(民法等の一部を改正する法律)について
NHK・共同親権 導入へ 改正民法など成立 離婚後の親権どうなる?
厚生労働省・全国ひとり親世帯等調査




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