はじめに
北中米ワールドカップで悲願の世界一に輝いたスペイン代表に、思わぬニュースが飛び込んできました。優勝賞金5000万ドル(約82億円)のうち、およそ21億円が米国の税務当局によって源泉徴収される見通しだと報じられたのです。開催国が優勝チームに税制優遇を与えるのが従来の慣例でしたが、今回はその慣例が通用しませんでした。
なぜアメリカだけが特別なのか、そしてこの一件は今後の国際スポーツ大会にどんな影響を残すのか。背景から丁寧に読み解いていきます。
決勝から一夜明けて判明した「もう一つの結果」
去る7月19日(現地時間)、北中米ワールドカップの決勝でスペイン代表はアルゼンチン代表と対戦し、延長戦の末に1対0で勝利しました。2010年の南アフリカ大会以来となる世界王者への返り咲きです。史上最多の48カ国が参加した今大会を制したスペインは、優勝賞金として5000万ドル、日本円でおよそ82億円を手にしました。これは前回のカタール大会と比べておよそ1.5倍にあたる金額で、大会規模の拡大とともに賞金総額も膨らんだ形です。
ところが優勝の余韻が冷めやらぬうちに、米国の国税庁(IRS)が賞金の約30%を所得税として徴収する方針だと伝えられました。金額にしておよそ21億円にのぼります。今大会は米国・カナダ・メキシコの3カ国共催で行われましたが、スペインは決勝を含む8試合中7試合を米国内でこなしていました。米国内での活動によって生じた所得は「米国源泉所得」とみなされ、非居住者であっても課税対象になるというのがIRSの立場です。実際の試算では、米国内での活動に対応する所得はおよそ4460万ドルとされ、その30%、約1340万ドル(約21億9000万円)が源泉徴収の対象になるとみられています。
ワールドカップでは通常、開催国が優勝チームへの課税を免除するなどの優遇措置を講じてきた経緯があります。しかし米国のメディアは、米国内で得た収入はほぼすべてのケースでIRSの課税対象になると明言しており、今回に限って例外は認められないという立場です。ユタ州選出の共和党議員も、税金の国である以上は仕方がないとの見解を示しており、政治の側からも制度の例外を認める動きは今のところ見られません。
「ぼったくり」と映る世間の受け止め方
この一件は各国のメディアやSNSで大きな話題となりました。英国の新聞は、あまりに厳格な米国の法律によってスペインが賞金の一部を失う結果になったと伝え、驚きと批判の声を紹介しています。日本国内の掲示板やニュースコメント欄でも「ぼったくりだ」「もう二度と米国では開催しなくていい」といった反応が相次ぎ、開催国としての振る舞いに疑問を投げかける声が目立ちました。
一般的な論調としては、優勝という栄誉の直後に多額の税金を差し引かれる仕組みそのものへの違和感が中心です。スポーツの祭典であるはずのワールドカップに、税務上のシビアな現実が容赦なく持ち込まれた形であり、選手たちの努力が正当に報われていないのではないかという感情的な反発も見られます。またFIFAが差額を補填するのではないかという憶測や、今後の開催地選定において税制面の負担が考慮材料になるのではないかという指摘も出ています。表面的には「アメリカの異例な措置」という受け止め方が広がっているのが実情です。
実は「異例」ではなく「原則」に忠実なだけという見方
ここで視点を変えてみると、少し違う姿が見えてきます。米国の税制において、非居住者が米国内での活動によって得た所得に課税するという考え方自体は、決して目新しいものではありません。米国のプロスポーツリーグでは以前から「ジョック・タックス」と呼ばれる仕組みが存在し、他州から遠征してきた選手が試合を行った州に対して、その地方税を按分して納めるルールが定着しています。つまり今回の一件は、米国が持つ既存の課税原則を、たまたま国際大会という舞台で外国代表チームに対して初めて明確に適用しただけとも解釈できます。
これまでのワールドカップ開催国が税免除という優遇を用意してきたのは、あくまで政治的な配慮や招致競争上の判断であって、税法上の当然の権利として免除していたわけではありません。米国が同様の優遇を用意しなかったのは、自国の税制に一貫性を持たせた結果とも言えます。加えて注目すべきは、選手個人の最終的な手取りへの影響です。米国で30%が源泉徴収されたとしても、スペイン国内で本来支払うはずだった税額から一定分が控除される仕組みが働くため、単純に21億円がまるごと目減りするわけではないという指摘もあります。優勝ボーナスがFIFA賞金とは別枠であらかじめ選手一人あたりの固定額として契約されている場合には、負担の大半を選手ではなくスペインサッカー連盟側が引き受ける形になる可能性もあります。つまり「選手が21億円を奪われた」という単純な図式ではなく、負担の所在は連盟と選手の契約構造次第で変わってくるということです。
今後の開催国選定と税制交渉に及ぶ影響
この構図を踏まえると、今回の一件が投げかけているのは目先の21億円という数字以上の論点です。今後、国際スポーツ大会の招致を巡っては、開催国の税制がこれまで以上に交渉材料として意識されるようになると考えられます。FIFAや国際オリンピック委員会のような団体は、招致段階で税免除条項を開催国政府との合意に明記することの重要性を再確認せざるを得なくなるでしょう。実際、今回の件を受けて、今後の大会運営契約においては賞金や選手報酬に関する税務上の取り扱いをより厳密に取り決める動きが強まる可能性があります。
また米国内では、州をまたいで試合を行うプロスポーツ選手に対する課税実務が既に確立している以上、今回のような国際大会の賞金への課税も、今後は一過性の話題ではなく制度として定着していく公算が大きいと見られます。開催国を目指す国にとっては、競技施設や治安体制だけでなく税制の透明性や優遇措置の有無が招致競争を左右する新たな要素になり得ます。今回のスペインの事例は、スポーツビジネスにおける税務戦略が、選手やチームだけでなく主催団体や各国連盟にとっても無視できない経営課題になりつつあることを示す、象徴的な出来事だったと言えるでしょう。
まとめ
スペイン代表の優勝賞金への米国課税は、表面的には「異例の措置」として受け止められていますが、実態は米国の既存の課税原則を国際大会に適用した結果です。負担の最終的な行方は連盟と選手の契約構造次第であり、単純な図式では語れません。今後は開催国の税制そのものが、国際大会の招致競争における重要な判断材料になっていくと考えられます。
参考記事
「ぼったくりだ!」スペイン代表の優勝賞金から米政府が21億円以上も徴収か ホスト国の”異例措置”に世界騒然「もう2度とやらなくていい」【W杯】(CoCoKARAnext)

スペイン代表の優勝賞金5000万ドルから米国が21億円超を課税する見通し(ライブドアニュース)




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