はじめに
一つのインデックスに投資する方法について
半年くらい前に話題になった記事ですが、記事の内容それ自体はそれほど真新しいものではなく、昔からある永遠のテーマの一つ(敗者のゲーム)です。そこで今回は、「この記事が」というよりこれを題材として「このテーマ」について考えてみたいと思います。
□普通の人が資産運用で99点をとる方法とその考え方 – hayato
内容としては、誤解を恐れずに極端に簡単に言えば、「楽天・全米株式インデックス・ファンド (楽天 VTI)だけに積立投資しろ、これに勝てる個人投資家は(ほぼ)いない」というものです。
ここでは「楽天VTI」としていますが、別に「楽天VTI」でなくともよくって米国メインにしたインデックス投資ならだいたい同じです。アメリカ市場全部でもよいですし、S&P500でもよいですし、VTみたいに全世界といいつつアメリカ株がメーンのものでもよいです。また、楽天でなくともSBIでもよいですし、そもそも元になっているETFがヴァンガードじゃなくても、ブラックロックでもステート・ストリートでもいいです。似たようなものがたくさんありますが、長期積立と未来の不確実性を念頭に置くならその差は誤差の範囲です。
この方法については、多くの投資好きや投資に興味がある人にとっては到底受け入れがたい方法です。なぜならそれは感情に反するものであったり、直感に反するものであるからです。
例えば、次のようなものです。
- 投資は分散が基本だ。アメリカ一国に偏向するのは投資原則に反し危険だ。
- 本当に一つのインデックス投資に絞って大丈夫なのか。債券とかゴールドとかに分散しなくてよいのか。大暴落に耐えられるのか。
- 配当生活がしたい。今すぐ使えるお金が欲しい。
- 簡単な方法より複雑な方法の方が優れているはずだ。
- 投資が好きでいろいろ考えているのに、盲目的にひたすら積み立てるだけなんてつまらない。
- この方法は時間がかかりすぎる。私は少しでも多くお金を得たい。少しでも早くお金を得たい。もっとよい方法はきっとこの世の中にあるし、それを探求していきたい。
これに対し、私の結論は、「個人的に、この先、一つのインデックスに絞って投資するこの方法をとる気は全くないが、たぶん多くの人はこの方法に勝てないし、私も勝てる気が全くしない。」というものです。
なぜ勝てないのか
その理由は、「VTIなどのインデックス投資が優れすぎている」からです。一昔前までは、個人投資家は「自分で様々な情報を読み解き個別株を選別し、リスクを分散し、最適と思われるポートフォリオを組んで投資をし、それが終わった後でも常に世界の経済状況に目を配り、ポートフォリオが崩れないように随時アセットアロケーションをしなければならず、しかもそこまでしても損をすることもある」という状況に置かれていましたが、VTIなどは「個別株を選ばない(むしろ全部買う)し、だからこそリスクは分散され、全部買っているのだからアセットアロケーションをする必要がない」のですから、本当にこれでいいのかと信じられないことも無理がないところです。これで資産が増えるのならもうやることはほとんどないですね。
また先ほどの懸念に対しては、例えば次のように考えることもできます。
- アメリカ株に偏向しているというが、アメリカ市場全体に分散していて十分リスクの分散はしている。仮にアメリカが大不況に見舞われたとしても世界の大部分を占める圧倒的なアメリカがポシャったときに、この世界がすべて連結している現在において無傷の国などあるものか。そのときはみんな等しく貧乏人であり、そのときは諦めるよりほかない。
- 株式に100%投資など投資原則からいえば狂気の沙汰以外何者ではないというが、伝統的な安全資産とリスク資産の分別など現在社会において意味があるのか。債券は株式と逆相関というが、先のコロナショックの際には、債券もゴールドも仮想通貨もすべてのものが大暴落している。それは、レバレッジをかけていた投資家が追い証のため現金がほしくて売れるものは何でも売ったからだ。その後、各国政府の政策や市場の動きにより伝統的な理解とは全く異なる動きをしている。個人がそれらをすべて把握してポートフォリオに組み込めるのか。
- 確かに配当金は心許ないし、配当金は複利の効果を最大限するためには再投資するのがベストであり配当金はないのかもしれない。それでも配当金がほしいのなら、積み立てたものを取り崩していけばいいではないか。積み立てたものが目減りするのは心理的に嫌悪感を抱くかもしれないが、高配当株式や高配当株式ETFの配当よりトータルで見ればよいパフォーマンスをだすだろう。それが嫌というのは心理的な問題だ。
そもそも、ある指標をベンチマークとしたインデックス投資に勝てるアクティブ投資はほとんどないことが知られています。それは世界のプロ中のプロでも市場を読み切るのは難しいからですし、また、インデックス投資は分析なんて全くしないのでかかるコストがかなり安いですが、アクティブ投資であればそのプロ集団が分析する費用、コストが足かせとなり、スタートラインの地点でもうすでに不平等となっているからです。そのコストを超えてかつベンチマークをアウトパフォームしなければならず、そのようなものは数えるほどしかないわけです。
そのような世界のエリートでも難しいものを個人が片手間でアウトパフォームするなんて考えただけで厳しいことが分かります。だから大部分の人は勝てないのです。
日本における一つのインデックスに投資する方法の仕方
具体的な方法
日本において最もベストな方法はほぼ決まっています。選択肢はほとんどありません。
- iDecoで「楽天VTI」を限度額めいっぱいまで家族分も含めて買う
- 積立てNISAで「楽天VTI」を限度額めいっぱい家族分も含めて買う
- 楽天証券で「楽天VTI」を楽天クレジット払いでポイントがたまる限度額めいっぱいまで家族分も含めて買う(SBI証券でも似たようなものがある)
※既に述べたとおり、別に「楽天」でなくとも「VTI」でなくともいいです。
なぜ選択肢がないのかというと、投資のパフォーマンスにおいて重要な部分を占める税金について、iDecoや積立てNISAなどの金融庁が行っている税優遇政策を利用せずにそれを越えてアウトパフォームする方法はかなり難しいからです。国策で最初から下駄を履かせている状態ですのでこれに勝つ方法はなかなか難しいです。よって、まずはこれを消化しなければなりません。
次に、3についてですが、この制度がいつまで続くかは分かりませんが、楽天は月額50,000円まで楽天クレカ払いすれば1%のポイントをつけるといっています。最大年額6,000円です。投資において1%伸ばすのにどれだけ苦労するかを考えた場合、その1%というのは破格だということになります。1%の下駄を履かせた状態でこれをアウトパフォームするのもまた難しくこれを利用しない手はないことになります。
これ以上のことは大部分の人はできないと思います。これをすべて行うと月10万~30万円くらいになりますので。最初の設定をしたらもう何もすることがありませんし何もできません。何ともつまらない投資方法です。しかし、この方法に勝てる個人がどれだけいるのかというとそれはほんの一握りの選ばれた人だけだと思います。
やめたほうがよいこと
本家「VTI」を買うこと
詳しい人なら「VTI」はアメリカのヴァンガードの商品だから、「楽天VTI」ではなく本家の「VTI」を買った方が手数料が安くて済むのでそちらを買おうという人がいるかもしれません。日本の証券会社でも気軽に米国株を買える時代になりましたからね。
しかし、それはやめておいた方がよいと思います。なぜなら、手数料の差はほとんどなくなってきている上に、円をドルに換え、その上で、ドルで買い付けるとなると「為替計算」の問題と「税金計算」の問題が出てきます。これが確定申告も含めてこの上なく面倒くさい。加えて、仮に配当を再投資しようとすると税金を払った上で買い付けせざるを得ず、また、二重課税の問題もあります。税理士でもない普通の個人で「為替差益の認識」の問題をどれだけの人が理解しているのかかなり怪しいところです。意図せず脱税してしまいます。TTSやTTBのことを考えるだけで頭が痛いです。
そのことを踏まえれば、それら面倒なことをやってくれる日本の証券会社の投資信託にした方が手数料のことを考えてもコストが安いといえます。まあ、確かに有名どころのETFしかなく、自分の好みのETFを購入できないのは残念なところではありますが。
リスクをヘッジすること
VTIを買いつつリスクヘッジをしようとして、他の投資信託を組み入れたり、他のVGTやBNDを組み込むことはやめた方がよいかと思います。理由は複雑になりすぎてポートフォリオを把握できないからです。例えば、VTI(全米)とVT(全世界)とを組み入れるとどれだけアメリカに投資しているのか、どのセクターに投資しているのかなど正確には目論見書を見ないと分かりませんし、見ても計算が複雑すぎてよく分かりません。そもそもリスクがヘッジできているのかどうかもよく分かりません。また、8等分のバランスものや日本の入っている投資信託を複数加えたりすると日本は何割か、先進国ものならアメリカは何割なのかなど、重複すればするほど把握が困難となってきます。
もし組み入れるのならVTI系に純粋な債券系の投資信託を組み入れるなど、どちらとも排他的なものがよいと思います。それなら容易に判断できます。そうすればアセットアロケーションも可能となりますが、そもそもこのインデックス投資法をするのならセットアロケーションをすべきなのかは疑問が浮かぶところであります。
より単純にリスク分散は「VTIと現金の割合」だけに絞った方が結果的にはよいのではないかと考えます。この方法の最大の難関は出口戦略です。暴落時ではないときに今まで買ってきたものを売り抜けなければなりません。その調整は、「VTIと現金の割合」だけにしておいた方が自分でリスクを管理でき、結果的に利益を最大化できる可能性が高まるような気がします。複雑であればあるほど対応できなくなります。
専門家集団ではない個人がリスクを把握するのは限度があります。それに何十億、何百億もの資産があるならともかく、いっても数千万や1億程度であるのならば、超富裕層が雇っているアドバイザーによる適切な細分化されたリスク分散は無理ですし、それくらいの資金でリスクを分散する必要が本当にあるのかは議論の余地があるからです。
それでもこの方法をとらない理由
一つのインデックスに投資する方法の欠点
以上のように、一つのインデックスに投資する方法は非常に優れた方法であり、再現性の高さから最大公約数の人にお勧めできるものであると私も考えます。
しかしながら、飽くまでも最大公約数の人に勧められる方法であり、残念ながらすべての人に勧められる方法ではありません。投資方法は個人それぞれによって千差万別であり、置かれている環境・状況が各々違うからです。
いろいろファクターはありますが、特に問題となるのは、「年齢」と「入金力」です。この方法は「どれだけ長い期間積立をすることができるのか」と「積立金額はどれだけ積むことができるのか」に左右されるゲームです。現時点で20歳で人並みの人生を送れるのならこの方法が非常に適していると思います。しかし、仮に50歳以上で入金力もあまりないとなるとこの方法が最適化は議論の余地があるところであります。それでもたぶん、どのような投資をするにしろこの方法を越えることは難しいのかもしれませんけれども。
しかし、投資の目的が、まもなく来る余生の資金だったり、子どもの養育のためであったり、自分の夢のためであったり、千差万別である以上、最適な方法というのはその人のライフスタイル、人生観そのものと密接に関わるものであり、この方法が必ずしも唯一最良の方法であるとは限らないと考えます。
「よりリスクを負ってでももっと短期間により多くの利益を得たい」というのは投資の最も強い動機でもあります。人にはそれぞれ目的に従って提供できるお金と時間には限りがあるのです。
結論
結論としては、一つのインデックスに投資する方法が最もリスクが少なく、自分が得られる利益の最大に近いとしても、それにすべてを賭けるのではなく、自分の投資目的と相談しながら、常に考えていくというのが一つの答えではないかと考えます。
その場合、インデックス投資を全く否定するのではなく、インデックス投資はインデックス投資として実施してそれを皮算用とし、将来これだけの利益が得られると考えられるから、他の投資をこれだけしてもよいのだといった具合に併用していけばよいのではないかと考えます。
「例え利益が大幅に減ったとしても、おじいさんおばあさんになって得られるお金がどれだけの価値があるのか」という考えは決して刹那的なものではなく、重要なことだと私は考えます。
そして、これはそれぞれの人生観そのものだと私は考えているのです。
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